EBM(Evidence-based Medicine) 「根拠に基づいた治療」と紹介されています.一言で説明するのは難しい考え方ですが,とても重要な考え方です.
一つ例をあげてみます.高血圧の患者さんがお薬で血圧をさげることは普通の治療として行われます.これを当たり前と思わずに調べた人々がいました.すると結果はどうだったでしょうか.サイアザイドとベーターブロッカーというお薬では脳卒中は減るのですが心筋梗塞と糖尿病が増えてしまうため飲んでも寿命は延びませんでした.ここで言う寿命とは調査した集団の平均値です.他のお薬はまだ大規模調査の結果が出ていないのでいいとも悪いとも判断がつかないようです.
さて個々の患者さんで「じゃあ高血圧は薬飲んでもしょうがない?」と言う問題がでてきます.エビデンスに忠実に従うのがEBMであればそうなりますが,EBMとはそういうものではないようです.ここでEBMの手順を紹介します.
Step1 患者の問題の定式化(高血圧が問題点であると認識する.)
Step2 定式化した問題を解決する情報の検索(サイアザイド,ベーターブロッカーや他の薬の大規模調査の結果を調べる.)
Step3 検索して得られた情報の批判的吟味(信頼に足る情報かどうか吟味する.)
Step4 批判的吟味した情報の患者への適用(目の前の患者さんは薬を飲むべきかどうか決定する.)
Step5 step1~step4の手順の評価
Step4でお医者さんは得られた情報を総合して考えて目の前の患者さんの治療法を選択することになります.5年以内であればサイアザイドとベーターブロッカーを飲んでも寿命は短くならないので,すごい血圧の高い人に短期に薬を使ってその間に生活習慣の改善を行うとか,考える訳です.
ここに示すようにEBMは医療を実践する手順を示すものとのとらえ方が一般的ですが,その成り立ちとして医学的判断を権威のある教授の言ったことを基にするのではなく,批判的吟味に耐えうる研究結果をもとにすべきであると言う至極,真っ当な考え方があります.ですから大学で行われる研究で医療の実践のための根拠を示すためのものはEBMの手法に則って行われ,批判的な吟味に耐えうるものでなければならないはずです.それが歯科や矯正歯科という小さい分野であってもです. いま行われている研究はどうであるか批判的な目で検証すべきであると思います.医療の実践のための根拠を示すための研究で明らかに批判的吟味に耐えられない研究は時間とお金の無駄です.また,責任ある立場にいる人はEBMの批判的吟味に耐えられない研究の結果(たとえば動物実験)をもって医療の実践を語るようなことをしてはいけないということです.サイエンティストとしてのプライドを持っていただきたいと思います.
写真は参考文献です.
岡田正彦先生 講談社α新書です.