ネットをちらっと見たら「スピード矯正」なる文字が目に飛び込んできました。スピードブラケット(シャッターがよく閉まらなくなるセルフリゲイトのブラケットですね)は知ってるけど「スピード矯正」とはなんじゃらほい。早速G00gleで検索してみました。
オステオトミー(顎切りだね)とコルチコトミー(皮質骨に切れ目を入れる手術)とアンカーインプラントを使った治療で通常の半分から4分の1の時間でできると書いてありました。
特にコルチコトミーは早く歯を動かせるだけでなく、歯根吸収や後戻りを起こしにくい方法であるが非常に技術がいる処置なのでほんの一握りの歯科医師にしかできない処置である。
と書いてありました。あれまー
前半部分は確かに顎切りとインプラントを併用すれば治療期間の短縮ができる症例はあると思います。私もいわゆる上下顎前突の開咬で通法に従えば2年半以上はかかる症例を1年半で動的治療を終了した人はいます。
後半部分は疑問ですよね。歯槽骨にコルチコトミーを施して歯を早く動かすという試みは、何十年も前から行われています。さらにそれを全ての歯に行い早く歯を動かすという試みも20年以上前から行われています。それが本当に早く動く良い方法であれば一般化していてもおかしくないはずです。そうでないのは、やはり何か原因があるのだと思います。私個人の意見としてはコルチコトミーを行ったことによる治療の短縮効果はさほどないのに、かなり高い確率でコルチコトミーによるデメリットが生じてしまうためだと思います。デメリットとしてはアタッチメントロス・歯肉の退縮(歯茎がさがること)これは程度の差こそあれ必ず生じます。歯髄壊死(歯の神経が死んでしまう)、知覚麻痺、歯根の損傷などが考えられます。
人のことを批判するのに自分がおもうだけでは説得力はありませんので少し作業をしました。行ですね。
PubMedで[orthodontics corticotomy]というキーワードで検索してみました。総数57件少ないですね。一番古いのは1966年のものでした。コルチコトミーと矯正を併用したケースレポート(今回知りたいターゲット)が10。一番古いものは1981年でしょうか。EBMにおけるエビデンスの価値のない動物実験が8。上顎拡大のためのコルチコトミーが11。最近はやりのosteogenesisが6。抄録なしで内容が不明なもの20。ケースコントロールスタディらしきものが1。RCTは0。でした。
ケースコントロールスタディらしきものは、いわゆる上下顎前突65症例に対してグループ1(矯正治療のみ)、グループ2(コルチコトミー、アンカーインプラントを併用した矯正)グループ3(上下顎前歯部の骨切りによる前歯の後方移動と矯正治療)にわけて比較を行っております。残念なことにコルチコトミーとアンカーインプラントの併用ですので、コルチコトミーを行うと治療期間が短縮するかという問いに対する答えは得られません。
今回の検索では歯の周囲にコルチコトミーをしたら早く動くというエビデンスはケースレポート止まりでした。中には確実にアタッチメントロスが生じるという結果のケースレポートもありました。現状でコルチコトミーを行ったら治療期間が短縮できるという信頼できるエビデンスはどうでしょう。ないといった方がいいかもしれません。いわんやおや、歯根吸収が少なく、後戻りが少ないなどというエビデンスは見つけられませんでした。
こういった検索を行う時、考えなければいけないことは、うまくいったケースだけ論文になるということです。うまくいかなかったケースは論文にはなりません。うまくいったケースの陰にあまりうまくいかなかったケースがあるのです。その数はどちらが多いでしょう。うまくいくケースがおおければ、ケースコントロールスタディを行うことも容易でしょうし、最初にいったようにもっと一般化しても良いように思います。
このような現状でコルチコトミーを広告しているのであれば医療者として積極的に信頼のおけるエビデンスを作る責任があると思います。なんせ、彼らは高度な技術を習得しているそうですから、方法もきちんと確立しているのでしょう。
歴史があるのに一般化しない検査や手技は何か問題があると思った方がよいと思います。
それにしても医院のホームページは格調高く高級感あふれるつくりになっているのにひとたび矯正の治療例のホームページにはいると写真の汚いこと、挙げ句の果てに上顎前突の治療後の犬歯関係と臼歯関係がII 級で咬頭嵌合ができていない症例を堂々とお出しになっている。そんな治療は矯正治療のゴールとしては認められません。やむを得ずそうなったとしても、ホームページに誇らしげに掲載するなんて・・・・・
なさけな。
医院のホームページは業者が作りますから高級感は出ますが、症例はホームページ業者はつくってくれませんから。(波田陽区?ってだれ)