ブログの更新をしなければと思い立ち、何を書こうかと考えている時に、ふと「立派な文章をかいてやるぜ!」と意気込んでいる自分を見つけた。一方で、「そんなに意気込んでもたいしたモノは書けないよ。だいたい、誰に向かって何を伝えるんだい?」と冷ややかな自分がいる。書き始めれば何とかなるなと思い書き始めてみたものの、なかなか続かない。書きたいこと、皆さんに伝えたいことは沢山あるが、うまく文章にできない。
今日は働くということについて書きます。
と宣言してみたら筆が進むかしらん?
私は自分のオフィスで働くのが好きです。(誰に対して書いているか自分でも定まってないのでその時々で語尾が変化します。気にしないでください。)
なぜ好きか?患者さんが喜んでくださるから。私の治療という労働が患者さんのためになっていると実感できるから働く意欲が湧いてきます。
また、日本矯正歯科協会や歯科医師会の仕事をするときも一生懸命やろうと思います。多分、組織の人が僕に信頼をよせてくれているのを実感しているのでその信頼に応えようとしているんだと思います。
ここまで、かなりいい子ぶって書いてみました。私が思っている事については真実ですが内容については内田樹先生の受け売りです。
// 私たちの労働の意味は「私たちの労働の成果を享受している他者が存在する」という事実からしか引き出すことができないからである。// と「一人では生きていけないのも芸のうち」に書いてある。
私は「ふむふむ」とその論に同意し自分に置き換えて考えてみた。その結果が先程の文章である。私も人様の役に立とうと生きている事が確認できて安心した。
昨日の夜中、無人のオフィスでファクスが、かいがいしく働いていた。出てきた文書を手にとってみると
「歯科医院開業セミナー・押し寄せる二極化の波〜勝ち組になるためのポイント〜」
と書いてあった。㈱セム○○○ 古○○氏、㈱メ○○○ 本○○○氏、㈱デン○○○ 西○○○氏の講演会のご案内であった。
誰、この人達?私は知らない。結構この手のファックスは頻繁に送られてくる。みるたびに嫌悪感を感じていた。一方で、患者さんを増やすための方策は必要だよねと思う自分もいるので、なぜ嫌悪感を抱くのかよくわからなかった。人のオフィスに勝手に必要のないファックスを送りつけてくる神経がわからない。という憤りはあるが、その数倍の嫌悪感があった。
「一人では生きていけないのも芸のうち」を読んだら、何となくその理由がわかった気がした。でもうまく皆さんに伝えられないのよ。その辺がまどろっこしい。
要するに、このファックスはお金を儲けましょ!皆さんお金が好きでしょ!といっているのである。確かに私もお金が好きである。最低限はないと困る。でも、ね。内田先生が言っているように、日本中がお金のために働くようになって日本の社会がうまくいかなくなってきている。(詳しくは内田先生の本読んでください)基本的な集団では労働の報酬はつねに集団によって共有される。個人的努力に対して個人的報酬は戻されない。のだそうだ。ふむふむ。
今の日本(ちょっと前の日本かもしれない)は生存競争がほとんどなくリソースの配分に負けても餓死することがない時代なので、「個人の努力の成果は個人が占有して良い」という特例がまかり通っているんだそうだ。ふむ。
勝ち組になるためにというのはその類の思想である。突き詰めていくと他者を蹴落とし、自分の医院だけは生き残ろうとする戦略である。この戦略は短期的にはそのような医院の繁栄をもたらすかもしれないが長期的には歯科業界そのものが信頼を失うという危険性を孕んでいる。それはなぜか?彼らは集客にはご熱心であるが、治療の質には興味がないからである。医療の質は短期的には目に見えない。歯科医師のフェアネスに依存している。質を高めるということは時間がかかるということである。時間がかかるということは同じ単価では儲からない。単価が決まっている社保、国保の治療で考えると悪魔に魂を売り渡さないと儲からない。であれば保険外で単価を上げる事をセミナーでは勧めるのであろう。では果たして、どれだけの歯医者が患者さんから高額の料金をいただけるだけの治療技術を持っているのであろうか?多分セミナーでは技術は大事であるから各歯科医師が研鑽し習得すべきだと言うだろう。しかし彼らは直接技術を教えない。かくして、確たる技術もなく集客にだけご熱心な歯科医院が世の中に増えていき、保険外の治療をばんばんするようになる。歯科業界の信頼は地に落ちる。というような事にならないように歯科矯正の分野では日本矯正歯科協会がきちんとした専門医認定制度を運営している。きちんとしたというのはフェアネスがあるということですね。(フェアネスがない専門医制度を運営している所もあります。午前中、専門医申請者の症例を審査していた人が午後からは自らが申請者となり審査を受けるなんてフェアネスのかけらもない)というとずいぶん偉そうであるが、自分にできることは何かと考えたときに日本歯科協会の活動に協力することが歯科治療の質の担保につながると思ったのである。
エネルギーを使ってセミナーを開催するのであれば主催者は勝ち組になる事ではなく、より良く生きることを教えるべきなのである。そもそもお金だけが人生の目的である人は歯科医師なんかにはなっていない。医療とは本質的には他者もしくは社会に対する奉仕である。内田先生が言うところの労働と同じ事ではあるがそれを強く意識しないといけない職業である。より良く生きることとは他者たる患者さんに喜んでもらうことに他ならない。セミナーを行う者は現況を分析し、患者さんの望みを把握した上で集客に必要な歯科の技術を教えれば良いのではないかと思う。そうすれば、セミナーそのものが社会に役立つものになる。いかがですか講師の皆さん。