昨日,紀伊国屋書店でぶらぶらしていたら村上春樹の「うさぎおいしーフランス人」が目にとまった.持っていなかったので買ってみた.ダジャレ大魔王復活なるか.
帰ってきてPCを開いたら村上春樹のイスラエルでのスピーチの記事がでていた.
何となく全文,英語で読まなくてはいけないような気がして読んでみた.
そして,下記の部分を読んだ際に泣いてしまった.何で泣いたかはわからないが私自身が両親に対する葬送儀礼が十分でないと思っているからかも知れない.
My father died last year at the age of 90. He was a retired teacher and a part-time Buddhist priest. When he was in graduate school, he was drafted into the army and sent to fight in China. As a child born after the war, I used to see him every morning before breakfast offering up long, deeply-felt prayers at the Buddhist altar in our house. One time I asked him why he did this, and he told me he was praying for the people who had died in the war.
私の父は昨年90歳で他界した.父は教員を退職後,ときおり仏教の僧侶として仕事をしていた.父がまだ大学院生だったとき,父は陸軍に徴兵され,戦うために中国へ送り込まれた.戦後に父の子として生まれた私は,朝食前に父が仏壇にむかい読む,長く深いお経を聞くことを日課として育った.ある時,私は父にどうして毎朝お経を上げるのか聞いた.父は戦争で死んだ人達のためにお経を上げていると教えてくれた.
私の父は昭和11年生まれ,終戦時9歳.私は父から戦争当時の話は聞いたことがなかった.子供の頃の話も聞いたことはなかったが,村上春樹のように聞くこともしない間に,永遠に聞けなくなった.母方の叔父は戦争にいっている.将校だったらしいが,おじさんからも戦争当時の話を聞いた記憶はない.その年代の人に共通するかも知れないがおじさんは信心深かったと思う.戦争に関わった個人の日本人はしっかりと戦争で亡くなった人を弔ってきたのだと思う.誰にも言わずに.でも,世間がきちんと弔っていないから私の様な戦後生まれの,のーてんきがこんな機会でもないと戦争でなくなった人達へ思いが至らないのではないかと思った.
村上春樹のスピーチでもう一点感動したところは,彼は自らの職業は小説家であり,小説家の仕事は善悪を判別することであり.また,個人の物語を書き続けることだと明言したところである.
This is not to say that I am here to deliver a political message. To make judgments about right and wrong is one of the novelist's most important duties, of course.
私がここにきたのは政治的なメッセージを言いにきたわけではない.もちろん,事の善悪を判断することは小説家の責務のひとつではあります.
I fully believe it is the novelist's job to keep trying to clarify the uniqueness of each individual soul by writing stories - stories of life and death, stories of love, stories that make people cry and quake with fear and shake with laughter. This is why we go on, day after day, concocting fictions with utter seriousness.
小説家の仕事は個々の命のかけがえのなさを浮き上がらせるために物語りを書き続ける事だと信じている.その物語はある時は生と死についてであり,ある時は愛の物語であり,またあるときは恐怖になき震える人々の物語であったりする.ときには腹を抱えて笑う物語もある.これが私たち小説家が毎日毎日物語を紡ぎだいている理由です.
小説家は善悪を判断し,他に替わるものがない個の物語を語り続ける.このことを持ってThe Systemと対峙している.矯正歯科専門医は仕事として何をすればいいのか.患者さんの歯並びとかみ合わせをきちんと治すこと,先達が創り上げててくれた技術と理論を後から来る人に伝えることが仕事だと思う.それともう一つ,患者さんが安心して矯正治療を受けられる環境を作り出すこと,これをしないと矯正治療そのものが無くなってしまう恐れがある.この仕事はThe Systemに対する戦いなんだと思う.戦争と比べると歯科矯正を取り巻く環境なんか重箱の隅っこかもしれないが,それが私の仕事だと思う.