人使いの荒い先輩の依頼で今朝書いた文章をアップします.
矯正治療の早期治療はするべきか否かという問いに対する答えです.
10歳以前で行う歯科治療でエピデンスがあるのは乳歯の臼歯部交叉咬合,早く治した方がよい(削合する)とコクランライブラリーにありますね.http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0055/4/0055_G0000154_T0002032.html 混合歯列期の臼歯部交叉咬合の拡大は治療効果のエビデンス弱いみたい.
基本的には永久歯で治療した1回だけ治療と早期治療した上で永久歯で治療した2段階治療のもので治療期間や治療結果の質に差はなかったとする報告が多いようです.ただこれらは平均値でものをいってますから,個々の症例の物語では,早期治療をしたからこそ良くなった症例もあるでしょう.
その他,矯正治療の結果についてのエビデンスではないですが,過度の出っ歯(歯医者の言葉でいうと過大なオーバージェット,私たちの言葉で言うと著しい上突咬合)の患者さんは外傷(脱臼,破折)の危険性の軽減のため一時的に上顎前歯を後退させる治療が推奨されています(おもに欧米).この場合,この治療だけではきちんとした永久歯列にはならないので永久歯列での治療が必要になります,
あと,反対咬合(下突咬合)は10歳以前で一度治します.歯の生える方向が悪く反対咬合になっている人はこの時期に治せば反対咬合が再発することはありません.骨格的に下顎が大きくなる遺伝的要素を持っている方は,思春期の成長で身長がぐんと伸びるときその要素が具体化しますので(下顎は手足の骨と同じ長管骨です.グンと伸びる時期も一緒です)反対咬合が再発します.たとえこのような人でも審美的に問題がある反対咬合のままで多感な小中学校の時期を長期間過ごすことはかわいそうです.再発の可能性を説明した上で一度反対咬合を治します.
〔もう一つ理由あります.治療の効率からいうと,骨格的に反対咬合になってしまう人に早期治療をしても意味がありません.後から振り返れば時間とお金の無駄でしかありません.私たちのようなちゃんと経験のある専門医(自分で言うな?)はこの人が骨格的であるかどうか判断できます.でも,初診もしくはまだ信頼を得ていない状態で「お宅のお子さんは骨格性の反対咬合だから今治療しても思春期にも再発する.だからこのまま経過観察です.」と言い放ったとき,患者さんの親御さんは「そんなことはない.こいつが藪だからそんなこというのだ他の歯医者に行こう.」となります.実際私の患者でも,経過観察の途中で来なくなり,一般歯科で10年間チンキャップの治療をしたのち18歳でやっぱり治らなかったといって,顎切り(手術です)をしに戻ってきた患者さんがいます.(一人じゃないよ)〕今は診断時にこのようなことをすべてお話しして患者さんに選択していただいております.もちろん,どちらがいいか私の意見は伝えた上で.
話を戻します.たいていの患者さんは歯の問題と骨格の問題が混ざっています.その混ざり具合で再発するかどうか決まります.専門医ならある程度,将来を見越して効果的な無駄のない治療を選択することができます.ですから個々のケースについては専門医に相談してね!ということになります.